「ジャッキー・ボーイ」の対のお話。
「あのさ」
「なんだ、改まって。」
「・・お前や修が引退したみたいに、いつかオレも引退する日がくると思うんだけど、どうする?」
「どうする、とは?」
「・・いや、サイバーで走れなくなったら、どうしようかなって。」
「そうだな・・他にやりたいレースはあるか?たとえばインディとか」
「んー?・・そうだね、インディは好きだし、ドラッグレースとかも好きだな」
「では、その分野に進出する」
「は?・・オレのために会社の金でチームを作るってか?」
「チームでなくてもよい。バイクや馬でもいい。おもちゃ会社なんてのもいいかもしれない。」
「どんなワガママだよそりゃ」
「・・別に私のワガママは今に始まった事でもないのでな」
「そりゃ確かにそうだけど・・いや、でも親父さんが許さないだろ?」
「あの人とはなんだかんだで軋轢はあるが、説得すれば結局は通してくれるさ」
「・・いや・・かなーり似たり寄ったりのカタブツでガンコモノだと思うけど・・」
「・・お前に言われると不本意だが、母もそう言っていた。そして私の主な性質は父方に似ているらしい。
だが、父に言わせると私の一度夢中になると目的しか見えなくなる性格は母方似らしい。」
「・・夫婦で生産物のセキニンなすりつけあうなよ・・えーと・・なんとか法。」
「PL法だな。だからお前は私に対して責任をとる必要がある。私がやりたいことに死ぬまで付き合え。」
「・・普通、逆じゃね?」
「私が満足なんだから、それでいい。」
「・・OKハニー。地獄まで一緒だ。・・50年くらい先になって泣き言言うなよ?。」
「お前こそ。」
(数日後)
「お兄ちゃーん、おばあさまからなんか小包み届いてるよ〜」
「あぁ、ありがとう」
古風な茶色の油紙を破ると、中からなにやら薄い紙の柔らかな包みが出てきた。
そっと開けると、白いレースの波がハイネルの腕に広がった。
「!?・・見事なクロシェレースだが・・」
滑らかなレースが腕から零れ落ちそうになるのを細い指で抑える。
その重さと繊細さは紛れもなく手編みの工芸品だった。
その端からひらりと1枚の紙が落ちた。
『フランツへ。
私の編んだベッドカバーです。
あなたの寝室に幸せが訪れますように。』
孫を思いやる祖母の愛か、はたまた果てしなく手の込んだ嫌がらせか。
いずれにしても今度実家に帰る日にハイネルを待ちかまえるであろう
惨劇・悲喜劇は想像に難くなく。その卓抜した想像力故にしっかり
頭が漏電を起こしたハイネルは、レースと共に床に沈んだのだった。
ブラウザのバックで(以下省略)・・