いつまでもどこまでも
 
シュティールが妨害電波を出しているという疑惑があがり、シュトロゼックでは連日のデータ検討が続いていた。
もちろん、そのデザイナーであり、総責任者でもあるハイネルは各種の指示を出し、データを整理し、検証する毎日。
ハイネルが「しばらくは帰れそうにないから」そろそろ数日。
グーデリアンはこっそりとハイネルのオフィスを覗いた。
 
珍しくハイネルは、椅子をリクライニングさせ、肘掛に腕を載せてどこか遠くを見ていた。

「・・ハイネル?」

「あぁ・・すまないな。」

「どうした〜?

「・・息苦しい・・」

 

グーデリアンは予備のスツールを転がし、ハイネルの枕元に座った。

耳元に顔を寄せ、額で熱を測る。

「熱かな?」

「いや、体調は悪くない」

グーデリアンは机の上に積み上げられた、付箋だらけの紙の山を見て苦笑する。

「・・また暇なマスコミと、物事をよく知らない『専門家』が騒いでるだけだろ?

そのうちなんか大統領のスキャンダルでも発覚すれば、あっという間に収束するぜ。」

「そういうわけにもいかんのだ。きちんと説明をしておかないと。しかし、それだけではない。」

 

「ん?」

 

「走って・・勝って・・でも、それだけじゃない・・」

夢や理想、メッセージ、伝えたい沢山のこと。それらの重圧に時々潰されそうになる。

未来のこと、スタッフのこと、多くの敵と味方のこと。それらがさらにハイネルを苦しめる。

『お前は、自分が全能だと思っているのか』

困難に直面するたび、心の中の何かが常にハイネルをあざ笑う。

全能ではないが、近づきたいとは思っている。それは自分には過ぎた希望なのだろうか。

 

「ダイジョーブ、俺がついてる。そして俺はオマエと一緒ならどこでも行くよ。」

ふいに、耳元でグーデリアンの声がした、

グーデリアンはハイネルを椅子ごと後ろから抱きしめる形になり、さらに耳元でつぶやく。

「お前がまっすぐ好き勝手に進んでるのが、俺の一番の幸せ。俺はそんなお前を一生かけて守ると決めたんだ。」

思いがけない言葉に、ハイネルは後ろを振り返り、グーデリアンの顔を見つめる。
その顔は思いがけず、とても真摯で。
ハイネルの表情が一瞬、柔らかくなる。
 「・・・・馬鹿者」
 「ひでえ言い方。」
 「・・・・馬鹿だから仕方ないだろう」
 柔らかい表情のまま、笑いながら、ハイネルはグーデリアンの頭をしっかりと抱きかかえる。
 
「私は・・一人ではない」
「うん」
 
 窓の外には夕日が差し掛かりはじめた。
今夜は久しぶりに早く帰って、この馬鹿に温かい夕食を作ってやろう。
 ハイネルは手元の金髪をくしゃくしゃと撫でながら、眼前に広がる可能性を信じてみようと思った。
 
 
 
 
 
 
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