らくがき
 
ファクトリー内にある、ハイネルの仕事部屋。
常にスタッフの出入りでごった返す場所ではあるが、時々、不思議に水面のような静寂が訪れる一瞬がある。
そして、なお不思議なことに、その時間になると決まって一人の大男が現れるのだ。
全身に賑やかさと陽気さをまとって。
 
「ハッピーバレンタインハイネル♪」
「あぁ、2/14だったな。」
「って、冷たいのね。せっかくバレンタインカードを書いたのに・・」
どこで買ったのか、金色一色の派手派手なカードを渡されると、ハイネルは軽く片眉を上げた。
「気持ちの悪いシナをつくるな!・・しかし趣味の悪い・・
・・ファンからもたくさん届いている。とりあえず目を通しておくんだな。」
指を指されたのは、ハイネルの横に置かれた大きな大きなダンボール。
中には色とりどりのカードがぎっしりと詰まっていた。
「趣味悪いって・・えーっ、これ全部読むの?・・うれし悲しぃー・・
ジャパンじゃ、女の子がチョコレートをあげるって事になってるらしいぜ。
だから、わざわざ日本から取り寄せたのによーそのカード。」
「あれは業界の戦略だ。・・私には想像しただけで地獄だが・・」
「オレはうれしいけどねー。あれ、何かいてんの?」
ハイネルは話をしながら手近にあったコピー用紙に、珍しくしゃっしゃっと音を立てて鉛筆を走らせ始めた。
見る間に白い用紙の上に、シュティールの形が浮かび上がる。
その、雑ではあるが一部の狂いもないデッサンに、グーデリアンは思わず口笛を吹いた。
「相変わらずすごいねぇ」
「行儀が悪いぞグーデリアン。」
言いながらも、引き出しの中からおそらく長年使ってきたと思われる画材を出す。
手に取ったのは濃い金色と真紅のパステル。
無色のデッサンの上に、見る間に軽く色がのっていく。
見る間にそれはグーデリアンの乗るシュティールになっていった。
「うん・・」
ハイネルは上に、空色のパステルで『You win.』と書き、少し考え、二重線で消した。
そして、その上に再度『We win.』と書き直し、グーデリアンに突きつけた。
「ほら、ハッピーバレンタイン、グーデリアン。」
「え?」
渡された紙の中には、紛れも無い手書きの愛の告白。
それとも。
「・・挑戦状ってコト?」
顔を上げると、にやりと不敵に笑う緑の目とあった。
「・・私が欲しければ、私を勝者にしてみろ。」
「オーケイ。俺の胸で泣かせてやるよ。」
・・鋭く輝くその瞳に、いつか涙を浮かべさせてやる・・
軽くキスをし、グーデリアンはコピー用紙をひらひらとさせながら去っていった。
途端に、部屋に静寂が戻る。
ハイネルはあたりに漂う甘い空気にしばし目を伏せ、再びプログラムを開いた。
そろそろ、あちこちからの今日のデータが集まる時間だ。
 
私たちは一歩ずつだが、確実に前進している。
蓄積したデータがハイネルにそう語りかける。
 
ワールドチャンプまであと少し。 
 
 
 
 
 
頑張れ30分一本勝負シリーズ(推敲なし) 
 
ブラウザのバックで(以下省略)・・